【活動レポート】育休、いいとも! Vol.6 FINAL〜「育児は本当に仕事の役に立つのか?」〜

★育休、いいとも!とは・・・

育休をユニークに過ごした人や、育休で人生を変えた人をゲストに迎えて、オンラインでお話をお伺いする会です。小さな子どものいる私たちにとっては、オンラインで気軽に様々な方の生き方に触れられるのは、ありがたい機会です。

【ゲスト紹介】

浜屋 祐子さん

北海道出身。夫と長男(中二)長女(小四)との4人暮らし。

国際基督教大学教養学部卒業後、日本銀行に入行し経済調査を担当。

その後、人材マネジメント領域に転じ、人事・組織コンサルティング、社会人向けの経営教育事業等に従事した後、東京大学大学院に進学し、育児と仕事のポジティブな関係に関する研究を行なう。

修士課程修了(学際情報学)後は、経営教育事業に携わるとともに、出産や育児等のライフイベントを経験しながら働く(働きたい)おとなを応援する活動を行っている。共著に「育児は仕事の役に立つ ワンオペ育児からチーム育児へ」(光文社)、「アクティブトランジション 働くためのウォーミングアップ」(三省堂)など。

今回の「育休いいとも!」は、二人のこどもを育てるワーキングマザーであり、書籍『育児は仕事の役に立つ 「ワンオペ育児」から「チーム育児」」へ』の著者である浜屋祐子さんに登壇いただきました。育休コミュニティでは、毎月課題図書を設定しており、メンバーで読後の感想や気づきをシェアしています。3月の課題図書が前述の本でした。

そのご縁もあり、チーム育児に関心の高い復職前のメンバーに向けて、ご自身のリアルな体験や研究を踏まえて、どのように夫を始め周りを巻き込み「チーム育児」を実現していったのか、というお話を聞かせていただきました!

レポートは、育休コミュニティメンバーによるインタビュー形式でお届けします。

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「浜屋さんのこれまでのキャリアとは?」

これまでのキャリアは順調そうで、はたから見ると華麗な経歴に見えるけれど・・・?

 表に出しているプロフィールは、カッコ良く見えるように書いているだけ(笑)。自分のキャリアは3つのステージに区切れる。

・20代

 たまたま縁があって金融業界からキャリアをスタートした後、人材業界へ。試行錯誤しながら興味のあることに近づいていった。

・30代

 子育て中心にキャリアを組み直した時期。実は第一子出産以後は、最初の一年間を除いて正社員として働いたことがない。今の勤務先(経営教育事業)に転職した際は、「より心身に無理のないかたちで仕事を続けられそう」と契約社員として働くことを選んだ。世の中では「早めにフルタイムに戻ろう」とか、「正社員の地位は手放さない方がいいよ」というアドバイスも聞かれるけれど、それとは違う道を選択した。他人の目には、「マミートラックに乗った」と映ったかもしれない。でも、「我が道をいく」で、悔いはなかった。

 「この先は自分流で良い」と割り切った30代だった。

・40代

仕事をいったん退職して大学院へ進学した。再スタートという感じ。転職も、キャリアの中断もあったが、今までのさまざまな選択を「後付けで正解にしちゃえばいい」と思えるようになった。


「大学院に行ったこと、キャリアを中断することは怖くなかった?」

 転職した時も、大学院に行ったときも、怖くはなかった。それよりも、働く賞味期限が短くなっちゃうかも、という恐怖心があった。もともと、金銭的にも生きがい的にも、長く働き続けたいと思っていた。ただ30代が終わりに近づいてきた頃から、持ちネタがすり減ってきたという危機感があり、このままではあと20−30年賞味期限が持たないかも、と思った。

 会社の経験以外にも、他の人にはない価値を上げたほうが安心できると感じた。なので、キャリアの中断自体はそんなに怖くなかった。ただ、実際に大学院生になって収入が途絶えてからは、自分が家計を直接的には支えていない、という心もとない感覚を初めて味わった。自分のものを買う時にどこかちゅうちょしたり、「稼いでない分、家事しなきゃ」というモヤっとした感覚を知ることができ、世界が広がった。

 振り返ると、新卒の時に想像していたよりもずいぶんデコボコしたキャリアとなったが、「長い職業人生だからいっか」と思えている。自分が機嫌よく長持ちして働けるなら、収入のアップダウンも一時的なキャリアの中断も、大きな問題でないと考えられるようになった。


「育休からの復帰後はどうだった? 一人目と二人目のときの違いは?」

 一人目の出産からの復帰時は「かっこよく、テキパキと効率よく合理的にやればいいんでしょ」と妄想していた。実際には、自分の処理能力は思ったほど高くなかった。夫を含めて周囲を巻き込むという発想は乏しく、一人で抱え込んでキャパオーバーになり、ある日、家のソファの上で夫に向かって「わたしはこんなに大変なんだー!」と演説をしたことも(笑)。

 仕事では一人でいかにスピードを上げるかを重視し、チェック体制を作ることを怠り、ミスが発生した。大失敗してお客様先に新幹線で謝罪行った日のことはずっと忘れられない。家でも仕事でも「チーム」の発想が足りなかった。今思うとそこが反省点。一人目の復職直後の心理状態は、まるで一人で戦っているソルジャーだった。

 二人目の復職時は、家庭でも仕事でもチームを意識してスタートできた。家庭では、夫に加えて、病児保育のシッターさんなどの手を借りることも始めた。仕事でも、パンクしそうな時には早めに周りのメンバーと仕事の棚卸しと見直しに取り組んで、お互いに助け合うことを心がけた。孤独な戦士のマインドからは脱することができた。


「育児はなぜ仕事の役に立つのか?」

育児をしていることは、キャリアが遮断されデメリットと感じているひとが多いのでは?

 「育児は仕事の役に立つ」、昔の自分にかけたい言葉でもある。

 復帰した当初は「人に迷惑かけないように」という思いが先に立っていたが、視野を広げて「育児は自分の成長にとってもいいことだ」と思うようになり、そのことを認めながら働いていくと、もっと心穏やかに、前向きに職場で貢献できるようになった。

 育児と仕事は同じか?という問いは深いと思った。ある意味全く性質が異なる活動。仕事は直線的に前へ進んでいく。一方、育児は、昨日と今日の違いがわかりにくい。かと思えば、ある日突然、ステージが変わって成長を感じることも。

 仕事と育児では、時間の捉え方が全然違う。ただし、共働きで、「誰かと一緒に育児をしていく」という活動になった途端に、仕事に通じる部分が増えてきた。どのように役に立つかは、皆さん読書会をしていただいたとのことで省くが、いろんな人が関わったほうが、子供にとっても、そして育児者にとっても、豊かな世界にたどりつくと思う。


「両立のコツは?書籍の中の「予想しない」と「こだわらない」について」

 もちろん、当然起きるだろうというものに関しては、しっかりとセーフティネットを用意しておくことが大切。例えば、これから復帰して最初に直面するのは病児対応。パートナーや家庭外の協力を得て、「想定外を想定内にしておく」のは重要。

 ただし、それ以外のことも起きる!たとえば、病気になることは予想の範囲だけど、予想外に期間が長引いたりもする。または、自分が体調を崩す、パートナーが病気になることもある。そこで、「予想と違う!」「こうしておきたかったのに〜!」と折れちゃうのではなく、イメージとしては肩幅に足を開いて立って、どこから風が吹いてきても不思議じゃないという心持ちで構えておく感じ。

 こだわらないことは手放しつつ、足りなかった備えは気持ちを切り替えて整え直す。

 夫婦でタッグを組むと良いのは、チーム戦でできること。チームと言っても、特定の時期をとりあげれば、夫が仕事で忙しく、妻側が家庭内でワンオペ気味になるときもあるかもしれない。また、妻がキャリアの正念場なので、夫が育児時短を取ったというケースもある。

 いずれにしても、ライフステージの変化に応じて妻だけが働き方を調整するのではなく、夫婦ともに変化するという意識を持てると心強い。


「パートナーをどう巻き込んだらいいか?浜屋さんのパートナーは?」

 夫婦間でスタート時点での温度差はあると思う。夫は今や育児家事を完全に同等に行なうパートナーだが、最初からそうだったわけではない。保育園の送りを担当したり、休日に子どもを病院に連れていったりして、「保護者代表」として家での子どもの様子を聞かれていく中で、どんどん当事者になっていった。夫自身が語っていた言葉なのだが、まさに「そして父になる」という感じだった。

 そういう意味では、妻側が夫に一方的に言うよりも、家庭外の人から父親としての行動を折に触れて求められた方が効果的。保育園に送迎する機会はとても良いきっかけになると思う。あとは、「保育園の緊急連絡先を、あえて夫にする」というのを流行らせたい。夫がすぐに迎えに行けないとしても、夫に情報がいくことが大事。また、夫の勤務先にも連絡がいくと「この人は仕事以外の役割も担っている人なんだ」と伝わり、「無駄な残業はやめよう」という機運をつくるキッカケになるかもしれない。


「ワーママが自分らしいキャリアを築く上で大切なことは?」

 あくまで私の考えだが、「とにかくやめない」とか「できるだけ早くフルタイムに」とか、形式上での正解はないと思っている。育児と仕事の両立に不安を持つ大学生に話をするときにオススメしているのは、「いろんな意味での貯金を自分なりのペースで継続する」こと。

貯金の例:業務専門スキル、対人スキル、他部門の理解、社内でのネットワーク、社外でのネットワーク など

自分が働き続ける上で役立つ貯金を自分なりのペースで続けていくこと。もちろん、全部の項目を同じペースで貯金し続けられるとは限らない。たとえば、営業の方が復職後に内勤の営業サポートに異動になった場合は、営業自体の経験を積む機会は減るが、裏側のオペレーションなどを多角的に見られるようになると捉えられる。現場の第一線を支えてくれる人たちとの信頼関係をつくる機会にもなる。何かしら自分で貯金できる項目を作れば良い。

 この育休コミュニティでは、「自分のテーマをもって行動する」という方針があると聞いている。それはすごく良い取組みだし、会社に復帰してからも続けていける行為。自分なりの目標と合格点を作って、その結果に合格のハンコを押せれば良いのではと思う。

「テーマに沿った行動をすることが貯金になる」

人と比較して焦って、ゆえに疲弊するのではなく、ここからは自分ルートで進んでいくこと。自分なりのテーマ・目標(スモールステップでいい)とそこに向かっていく行動の振り返りをしたときに「合格スタンプ」を押していければ良いと思う。もちろん、職場では求められる成果がある。自分が思い描くテーマと合格点を上司とすり合わせられれば、モヤモヤを溜め込まずにご機嫌に働けるのでは、と思う。

育休コミュニティのような場は最強だと思う。コミュニティで、お互いの近況を共有して、この3ヶ月どんな「いい変化」が起きたかを振り返ったり、認め合う習慣がついたり、それがエンジンになったりもする。


【応援メッセージ】

 おそらく育休コミュニティにいる方は、「チームを作ろう」ということに関しては、夫婦互いの様子を見つつトライされていると思う。そこはあまり心配していない。きっと頑張り屋だろう皆さんに伝えたいのは、「ぜひ自分を大事にしてください」ということ。誰かに頼ったり、切り分けたりするには、エネルギーがいる。本当に余裕がなくなると、いったい何を頼ればいいのかわからない状態で、倒れてしまうこともある。

エネルギーを蓄えるためにも自分を大切に、充電スポットや充電時間を散りばめる。自分がリラックスできる時間さえあれば、振り返ることもできるし、物事を切り分けて体制を立て直す時間もある。そこが起点になると思う。

4月から色々大変なこともあるが楽しいと思う!2時間でもよいので、充電の時間を取ることを意識してほしい。あとは、育児を通して仕事に役立つものは蓄積されると本の中で語っているように、葛藤もあるが同時発生で成長も起きているので、時間軸を伸ばして、いつか育児も役に立つと構えて。そうすることが、長持ちして幸せになれるキャリアにもつながるのではないかなと思っている。


【質疑応答タイム】

Q.パートナーにもっと当事者意識を持ってほしいがどうしたらいいか?夫婦で転職したとあったが、どんな理由で転職されたのか?

A.私は完全にワークライフバランスの向上を目指した転職だった。夫は、キャリアアップを考えての転職。たまたま同じタイミングになった。ただ、夫婦で今後、「家計がどうなるのか?」「役割分担はどうするか?」「いつまで働きたいか?キャリアの展望は?」等、みっちり深い話ができた。今に生きる良い機会になったと思う。

「家のことを含めて、キャリアを考えるのがスタンダードだよ」と夫婦間でも仕事の話をどんどんしてほしい。

Q.大学院含めキャリアを選ぶ際の軸は?キャリアを自分の賞味期限で考える発想を持ったきっかけは?

A.一番の判断軸は、「やっていて自分が楽しいと感じるか」。それに加えて、「対価を得られるか(稼げるか)」「世の中に貢献できるか」。私の場合は、自分の持ち物で考えたときに、人材マネジメントや教育系の経験が長かったので、「教育のコンテンツを作る」を核としつつ 、♯大人 ♯人材マネジメント ♯教材設計 ♯育児 など、タグをいっぱいつけていく感じ。まだ登場させていないタグも色々ある。頭の中に10枚くらい付箋が貼ってあって、その中から4枚くらいピッと取り出して、これなら何かしら価値を提供できそうだなと思えた。

エグゼクティブ・サーチ(ヘッドハンター)の仕事をしていた時に、候補者のレジュメを整え、その方の売りをハイライトすることをやっていた。プライベートでも、「このラベルをつけるともっとあなたの価値が伝わるよ」といった感じで、夫や友人の履歴書のレビューを買って出ていたことも。これは良い訓練になる。転職の予定がなくても、たまに自分のレジュメを作り直すと、自分の強みを棚卸しできるのでオススメ。

Q.ワーキングマザーの転職ってどう見られているのか?

A.10年前は、ワーママの転職は厳しかった実体験がある。今、時代は変わってきていて、ワーママの転職は珍しくない。今の勤務先の社員にもワーママが非常に多い。しばらく専業主婦でブランクがあって、また活躍している人もいる。世の中の人材不足だし、長時間の残業が当たり前の職場だと、人が集まりにくくなっている。制約人材であることを過剰に恐れる必要はない。急な残業への対応は難しいことは伝えつつ、自分ができることを客観視してラベル付けすれば、少なくとも今の首都圏では仕事は色々あるように感じる。もちろん、転職を考えるよりも今いる会社を自分色にしていくチャレンジの方がふさわしいケースもあるだろう。いずれにしても、現状を「変える」あるいは「取り替える」選択肢は、ワーママにも色々あるはず。

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 浜屋さんは、最後にこんなこともおっしゃっていました。

「複数人でチームになることって、人手としての支援が得られるのはもちろん、もっと大きいのは精神的な支援だと思う。散々な出来事も、誰かと一緒に経験したり、話しを出来ることで、笑いに変えられたり、徐々に消化・昇華されて、彩りに変わっていくことも。いろんな場で言葉にするなりしていくと、全部の経験が肥やしになる」

 この育休コミュニティのメンバーの多くが、春から復職します。そんなタイミングにぴったりのお話を聞けて、焦っていた心がホッとしました。

 一人で抱え込まず、チームで乗り越えようという視点と、自分のタグを増やしながら、長い目で見て自分らしいルートを進んでいけばいいんだよ、と背中を押してもらった気がします。そして、ご機嫌でいるためには、「自分を大事にする」ことも忘れずに、ですね!

 浜屋さん、貴重なお時間とお話をありがとうございました!!